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東京地方裁判所 平成4年(ワ)12623号 判決 1993年5月28日

原告

甲野太郎

甲野花子

右両名訴訟代理人弁護士

佐藤信男

被告

乙野次郎

丙野三郎

丙村有限会社

右代表者代表取締役

丙村四郎

右三名訴訟代理人弁護士

安藤良一

主文

一  被告らは、各自、原告甲野太郎に対し、二五六一万九二六〇円、原告甲野花子に対し、二四五九万九二六〇円及びこれらに対する平成三年一二月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告甲野太郎に対し三六一九万〇九六五円、原告甲野花子に対し三一六四万七九六五円及びこれらに対する平成三年一二月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一争いのない事実

1  本件事故の発生

平成三年一二月一六日午後零時三〇分ころ、千葉県東葛飾郡関宿町東高野八二番地先の県道結城野田線の路上(以下、「本件現場」といい、右県道を「本件県道」という。)において、訴外亡甲野A子(昭和四九年二月二五日生まれ、以下、「訴外亡A子」という。)が足踏自転車(以下、「原告自転車」という。)に搭乗して路側帯を走行中、被告乙野次郎(以下、「被告Y1」という。)が本件県道端に駐車していた普通貨物自動車(以下、「被告Y1車」という。)に車道側から運転席に乗り込もうとしてドアを開けたため、右車両の右側を通過しようとした訴外亡A子が右ドアに衝突して車道側に飛ばされ、折から、原告自転車の後方車道より進行してきた被告丙野三郎(以下、「被告Y2」という。)運転の大型貨物自動車(以下、「被告Y2車」という。)の左側前輪付近に接触し、更に、後輪付近ではね飛ばされ、数メートル先の路上に打ちつけられた。この結果、訴外亡A子は、全身打撲・擦過傷の傷害を受け、その外傷性ショックに基づく急性心停止により事故から三五分後に死亡した。

2  責任原因

(一) 被告Y1は、車道側から運転席に乗り込もうとするにあたり、後方を十分注視し、その安全を確認しつつドアを開けるべき注意義務があるのに、これを怠り、後方を確認することなく漫然とドアを開けた過失により、本件事故を惹起した。そして、同被告の右過失と訴外亡A子の死亡との間には相当因果関係がある。

(二) 被告Y2は、車道を直進するにあたり、被告Y1が車道端にこれと平行して停車している被告Y1車の方へ近付いて行くところ及び原告自転車が路側帯上を被告Y1車の方向に走行していくところを認めたのであるから、その各動静を注視し、原告自転車が車道上に飛び出してくる事態を予見し、衝突を回避すべく進路を右に変え間隔を十分開けて進行すべき注意義務はあるのに、これを怠り、漫然と走行した過失により、本件事故を惹起した。そして、同被告の右過失と訴外亡A子の死亡との間には相当因果関係がある。

(三) 被告丙村有限会社(以下、「被告会社」という。)は、本件事故当時、被告Y2車を保有し、これを自己のため運行の用に供していた。

よって、被告Y1及び同Y2は民法七〇九条、七一九条一項による、また、被告会社は自動車損害賠償保障法三条本文による、それぞれ損害賠償債務に基づき、訴外亡A子及び原告らに対し、各自、後記認定の損害額全額の支払いをすべき義務がある。

3  相続

原告らは訴外亡A子の両親であり、同女の権利を相続により取得した。

4  既払額 七二一〇円

訴外亡A子は、治療費として右金額の支払を受けた。

二争点

1  損害額

原告らは、(一)訴外亡A子の損害として、入院関係費、逸失利益、慰謝料を、(二)原告甲野太郎固有の損害として、葬儀費用、慰謝料、弁護士費用を、(三)原告甲野花子固有の損害として慰謝料、弁護士費用をそれぞれ請求しており、被告らは、右各損害額を争うが、特に逸失利益について、四年制大学卒業の女子労働者の平均給与額を基礎として算定する点を争う。

2  過失相殺・被告らの主張

訴外亡A子は、被告Y1が駐車中の被告Y1車の右側運転席の外側横に立っていたのを認めたのであるから、右側運転席ドアが同被告によって開けられる可能性は十分予知できたはずであり、右の事態に備えた走行をすべき注意義務があったのに、これを怠った過失がある。また、仮に被告Y1が佇立しているのを認めなかったとすれば、前方不注視の過失があった。従って、被害者側にも過失が認められる。

第三争点に対する判断

一損害(以下の認定は、各引用の書証のほか、原告甲野太郎本人尋問の結果による。)

1  訴外亡A子の損害

(一) 入院関係費

合計一四万四六三〇円

(1) 治療費 一三万六七三〇円

(請求 一三万六七三〇円)

証拠(<書証番号略>)によれば、本件事故当日、訴外亡A子が幸手総合病院において受けた入院治療費のための費用は右額と認められる。

(2) 近親付添費 五〇〇〇円

(請求 六〇〇〇円)

証拠(原告甲野太郎)によれば、右(1)の入院に際し、原告甲野花子が付き添ったことが認められるところ、弁論の全趣旨によればそのための費用として右額が相当と認められる。

(3) 入院雑費 一三〇〇円

(請求 一四〇〇円)

弁論の全趣旨によれば、前記(1)の入院のために要した雑費として右額が相当と認められる。

(4) 文書料(争いなし)一六〇〇円

(二) 逸失利益

三七〇三万八五八三円

(請求 三七四〇万三二三六円)

証拠(<書証番号略>)によれば、訴外亡A子は、本件事故当時、西武台千葉高等学校に在籍する健康な一七歳の女子高三年生(昭和四九年二月二五日生まれ)であり、その翌年三月には同校を卒業する予定であったこと、同女は四年制の大学への進学を希望していたが、本件事故当日は、いわゆる滑り止めのための短期大学の出願書類を提出しに行く途中であったこと、同女の在籍していた前記高等学校の教諭の評価は、同女と同期、ほぼ同成績の女子生徒は相応の短期大学に進学していることに照らし、同女は複数の短期大学への進学が可能であったとしていることの各事実が認められる。してみると、訴外亡A子について、四年制大学への進学の蓋然性までは認められないにしても、短期大学に進学する蓋然性はこれを認めて差し支えない。また、弁論の全趣旨によれば、訴外亡A子は、本件事故に遭わなければ、事故約二年後である二〇歳(短期大学卒業年齢)で就職してから六七歳に達するまでの四七年間、稼働可能であったと認められる。以上によれば、賃金センサス平成三年第一巻第一表・産業計・企業規模計・女子労働者・高専短大卒・全年齢の平均年収額三二四万四三〇〇円を基礎に、生活費控除を三割として逸失利益を算定するのが相当であり、中間利息をライプニッツ方式により控除して本件事故時における現価を算出すると、次のとおりとなる(円未満切捨て)。

3244300×0.7×(18.1687−1.8594)

=37038583

(三) 慰謝料

一〇〇〇万〇〇〇〇円

(請求 一〇〇〇万円)

本件事故に遭遇した際に被った訴外亡A子の恐怖や苦痛、高校卒業、大学進学を間近に控えていた矢先に若くして前途を断たれた同人の無念さ、本件事故の態様その他諸般の事情を考慮すると、慰謝料として右額が相当である。

(四) 合計 四七一八万三二一三円

2  原告甲野太郎固有の損害

(一) 葬儀関係費

一二〇万〇〇〇〇円

(請求 四一三万円)

証拠(<書証番号略>)によれば、原告甲野太郎が、訴外亡A子の葬儀費、仏壇購入費及び墓碑建立費を支出したことが認められるところ、右額の限度でこれを賠償すべき損害と認めるのが相当である。

(二) 慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円

(請求 五〇〇万円)

同原告は、訴外亡A子の父親であり、前途を期待していた最愛の長女を失った悲嘆のほどは計り知れない。してみると、同原告固有の慰謝料をも認めるべきであり、前記金額が相当である。

(三) 合計  四二〇万〇〇〇〇円

3  原告甲野花子固有の損害・慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円

同原告は、訴外亡A子の母親であり、前途を期待していた最愛の子を失った悲嘆のほどは計り知れない。してみると、同原告固有の慰謝料をも認めるべきであり、前記金額が相当である。

二過失相殺

1  証拠(<書証番号略>)によれば、

(一) 本件県道は片側一車線(一車線の車道幅員2.8メートル)の道路で、本件現場付近は別紙図面のとおりであり、ほぼ直線の見通しの良い状態であったこと、被告Y1は、被告Y1車を、コンビニエンスストアの駐車場から本件県道道路端にある有蓋側溝にかけて関宿町新田戸方面に向けて駐車していたこと、被告Y1は買物を終え、被告Y1車に乗車するため、同車の後方から右側運転席に向かい、前記のとおり後方の確認を全くしないまま運転席ドアを開けたこと、その際、右ドアは本件県道の幅0.9メートルの路側帯のほぼ中央あたりまで開いたこと、その直後、本件県道を、関宿町台町方面から関宿町新田戸方面(即ち、被告Y1車の向きと同一方向)に向けて進行方向左側路側帯上を進行してきた原告自転車が、被告Y1車の右側を通過しようとした際、開けられた被告Y1車の運転席ドアと接触したこと、その結果、原告自転車はバランスを崩して本件県道車道上に逸走したこと、

(二) 被告Y2車は、本件県道を原告自転車の後方から同一方向に時速約五〇キロメートルで、また、本件現場に接近して原告自転車を認めてからは時速約三〇キロメートルに減速の上進行し、被告Y1車の運転席ドアが開けられた際、まさに被告Y1車の右側車道を通過しようとしたところ、その左荷台前部を、車道に逸走してきた原告自転車に衝突させたこと、右接触地点は路側帯白線から約0.5メートル車道に入った地点であったこと、本件事故の直前、被告Y2車の対向車線に対向進行してくる車両はなかったこと

の各事実が認められる。

2  右認定事実に基づいて、過失相殺について検討する。

被告Y1、同Y2には、それぞれ前記第二、2(一)、(二)のとおり、後方安全確認懈怠や車両間隔不保持の過失が認められるが、他方、訴外亡A子についても、その進行方向に鑑みれば、前方に駐車していた被告Y1車の運転席の方へ向かう被告Y1を発見することは可能であったものと認められ、そうとすれば、被告Y1が乗車のために運転席ドアを開けることは予測しえたものというべきである。従って、訴外亡A子には、駐車中の被告Y1車の右側を進行するにあたり、被告Y1の動静を注視し、かつ車道後方の安全を確認しつつ、被告Y1車との間隔を十分に開けて走行すべき注意義務があるのに、漫然と同車右側直近を進行した過失があるというべきである。

3  以上、被告Y1及び同Y2の過失と訴外亡A子の側の過失を総合斟酌すると、原告らの側の損害の一割五分を減ずるのが相当である。

4  よって、相殺後の損害額は、訴外亡A子につき四〇一〇万五七三一円、原告甲野太郎につき三五七万円、原告甲野花子につき二五五万円となる。

三填補後の損害額及び相続

既払額七二一〇円を控除した訴外亡A子に関する損害額は四〇〇九万八五二一円であり、相続により訴外亡A子の権利を取得した後の各原告の損害額は原告甲野太郎につき二三六一万九二六〇円、原告甲野花子につき二二五九万九二六〇円となる。

四弁護士費用

各二〇〇万〇〇〇〇円

五合計

甲野太郎 二五六一万九二六〇円

甲野花子 二四五九万九二六〇円

六以上の次第で、原告らの本訴請求は、それぞれ、被告ら各自に対し、右五の金額及びこれらに対する不法行為の日である平成三年一二月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官小西義博)

別紙交通事故現場見取図<省略>

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